花火のぬりえは、ふだんの塗り絵とは手順が逆になります。空を先に塗ってしまうと、もう花火は描けません。
白い紙に色をのせていく——という当たり前のやり方が通用しないのは、花火が「暗い背景の中の明るいもの」だからです。明るさは、色鉛筆では足せません。残すしかない。
なぜ白い色鉛筆では光らないのか
色鉛筆は、紙の上に顔料をのせる画材です。下の色を消す力がありません。絵の具のように白で塗りつぶすことはできず、濃紺の上に白を重ねても、うっすら白っぽくなるだけです。
つまり、いちばん明るい色は紙の白です。それより明るいものは作れません。だから「どこを白いまま残すか」を、塗り始める前に決めておく必要があります。
この原則は花火にかぎりません。金属・ガラスの塗り方でも、雪と氷の塗り方でも、同じ考え方が出てきます。明るいものを描く技術は、すべて「残す」技術です。
塗る順番
- 花火の線を、明るい色(黄・オレンジ・水色)で先に塗る
- 花火の中心は、ほとんど塗らずに白く残す
- 空を、花火を避けながら濃紺で塗る
- 花火のすぐまわりだけ、特に濃くする
4番目が効きます。明るいものは、まわりが暗いほど明るく見えます。花火そのものを明るくしようとするより、周囲を濃くするほうが確実です。
逆に言うと、画面全体を均一に濃く塗る必要はありません。花火の周囲だけ濃ければ、目は勝手に「夜だ」と認識します。
1本の線の中で色が変わる
本物の花火の写真をよく見ると、1本の光の筋の中で色が変わっています。中心近くは白く、外へ向かうほど色がつき、先端で消えていく。
- 中心|ほぼ塗らない
- 中ほど|黄色、オレンジ
- 先端|赤や緑。だんだん薄くして消す
この3段階をつけると、光が飛んでいるように見えます。ただし全部の線でやる必要はありません。手前の何本かだけ丁寧にして、残りは単色でも成立します。
むしろ全部を同じ密度で描き込むと、平面的な模様になります。メリハリのほうが大事です。
よくある失敗
空を黒で塗りつぶす
いちばん多い失敗です。時間がかかるうえ、手も紙も汚れ、途中で嫌になります。しかも黒く塗った空は、意外と夜に見えません。
夜空の色は、黒ではなく濃紺や濃い紫です。黒は影の色であって、空の色ではありません。濃紺を薄めに塗るだけで、じゅうぶん夜になります。
上下を同じ濃さにする
実際の夜空は、上ほど濃く、地平線に近いほど明るい。街の明かりが反射するためです。上を濃く、下を薄くするだけで、空に奥行きが出ます。
花火を塗りつぶす
線をしっかり塗ろうとして、中心まで色を入れてしまうケースです。中心が白く抜けていないと、光っているように見えません。塗る前に、残す場所を鉛筆で薄く囲っておくと防げます。
家の花火は、光り方が違う
花火大会に行かなくても、庭やベランダで手持ち花火をする家庭は多いはずです。打ち上げ花火と手持ち花火では、塗り方が変わります。
打ち上げ花火は遠くにあるので、光の筋がはっきり見えます。手持ち花火は近いぶん、光が周囲を照らします。持っている手や、足元、地面が明るくなる。
- 火花のいちばん先|白く残す
- 火花の根元|オレンジや赤
- まわりの地面|花火に近いほど明るく、遠いほど濃く
- 持っている人|光が当たる側だけ明るく
3番目が大事です。光源のまわりに明るい輪をつくると、そこから光が出ているように見えます。花火そのものより、周囲の描き方で決まります。
線香花火なら、火の玉の部分だけを橙色に、そこから飛ぶ細い火花を短い線で。火花は全部描かないほうがそれらしくなります。数本でじゅうぶんです。
夏祭りのものは「透明」が多い
花火以外の夏祭りのモチーフにも、共通する特徴があります。透明なものが多いのです。
かき氷と風鈴は、透明なものを塗る練習としてよくできています。「塗らないことで描く」という感覚が身につきます。考え方は金属・ガラスの塗り方と同じです。
見に行った日に塗る
花火大会から帰ってきた日に塗ると、まったく違うものになります。
「何色だった?」と聞くと、子どもは意外に覚えています。金色、緑、紫。実際に見た色を選ぶと、その日の記録になります。裏に日付と場所を書いておけば、数年分たまったときに夏の記録になります。